6年勤めたNTTを退職した人の同期だけど私も6年勤めたNTTを退職しました

 

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6年間通った職場

 

11月末付で6年勤めたNTTを退職しました。色々と話題のkumagiとは同期入社で同じ研究所、同じ部署、ブースは2個くらい離れたところでソフトウェアエンジニアをしていました。

 

kumagi.hatenablog.com

 

長いようで短かった日々ですが、本当に満ち足りた思いでいっぱいです、関係者の方々には大変お世話になりました。

 

振り返り 

2012年に入社したときに配属になった先はクラウド基盤開発を行っている部署でした。てっきり研究ができるものだと思っていたので、どうしたものかと最初は戸惑っていましたが、気づけば開発の沼へとどっぷりと浸かり、なんやかんやあってOSS活動に目覚め、OpenStack Neutronのコミッタ(コアレビューア)になって、最近はコンテナ周りのネットワークなどを中心に活動しています。

研究所について

NTTの持株と呼ばれる組織は研究所を持っています。大雑把に言うと、NTTグループ会社で提供されるサービスの技術を研究開発している組織で、日本企業の持つR&Dではかなりの規模になります。NTTという大企業の安定した収益のなかで、研究所では直近で必要になる応用研究から何十年か先に必要になるであろう基礎研究まで幅広い研究開発が行われています。

研究・開発について

6年間働いて、NTT研究所の研究開発の良い部分も悪い部分も多く見てきました。良い部分としては、とにかく自由な発想で研究が出来るという点にあると思います。NTT研究所は電柱や光ケーブルの素材から世界でも有名な暗号技術、ネットワーク装置、ソフトウェアからUIUX、画像処理、音声技術、自然言語処理まで本当に多種多様な研究をしている部署と研究者がいて、その研究成果を届ける先であるNTTグループ会社も多種多様な業種が揃っています。その中では、全然異なる分野の全く新しいことを始めたいと思ったとして「それはうちの本業とは関係ないよね」と言える物のほうが少ないんじゃないかと思います。どんな分野の技術でも始められる下地があって、それをサービスとして提供できる先もあるのは強みだと思っています。

ただし、悪い面というか上手く回ってない面もあると感じていました。それは事業会社との距離がどうしても遠くなってしまうことです。企業の開発部署や開発した成果物を受け取る先の部署にいたことがある人なら感じたことがあるかもしれませんが、開発を行う部署と運用行う部署、またそのサービスのお客様と接している部署との距離は同じ会社であっても遠くなりがちで、コミュニケーションが上手くいかず、色々な失敗が起きてしまうことが多々あると思います。NTT研究所はそのコストがとても大きい場所です。研究開発を行っているなかで、運用側やお客様からのフィードバックはとても重要なのですが、別の会社ともなると会議一つ設定するのも大変ですし、ましてやそれぞれの会社は異なる意思決定の元に動いているため、連携することが非常に難しいと感じました。

給与・環境について

日本の平均年収よりも高く、よく比較される電機メーカーやSI会社に比べて低いというわけでもありません。生活していく上で困らない十分な給与を貰うことができます。また、研究所の環境に限って言うと私はMacProに64GBメモリを積んで27インチディスプレイで仕事を主にしていました。持ち運び用にはMacbookProを持っていましたし、パフォーマンスなどを測りたいときは、コアとメモリをたくさん積んだサーバを買って試験をしていましたし、全く不満がなかったです。kumagiが例の記事であげていたセキュリティ施策の問題は確かに周りでも不満を持っている人はいますが、単に今までが緩すぎたという事実の裏返しの部分もあると思っています。NTTの提供する様々なサービスの総ユーザ数は数えることすら出来ないほど多く、その数の分だけ個人情報を持っており、また我々の大株主は日本国です。歴史的経緯などを加味しても、セキュリティをガチガチに固めるのは当然の判断だと思います。ただ、反発がある部分として、ガチガチに固めるあまりに気づいたら全く身動きが出来なくってしまった、という印象も一部ではあるので、そのあたりは今後改善の余地があると感じています。

私自身の話について

私は上記のような環境の中で本当に様々な経験を積ませてもらいましたが、そのなかで一番感謝していることが、私の希望通りにOSS活動する時間とお金を惜しまず提供してもらえたことです。詳しい経緯は下記のスライドを見てもらえばわかると思います。

 

www.slideshare.net

部署は開発で大忙しのなか、私は上司に直談判してOSS活動をさせてもらえる時間を貰うことができました。それからは会社に出社してすることは、パッチのレビューのみ、ミーティングもほとんど参加せず、ただただ毎日パッチ投稿やパッチレビューをする日々でした。この間、会社の成果や売上に何の貢献もしていません。なんなら、カンファレンスの出張費や検証用のサーバ購入費などとにかく金を食いつぶしてばかりの存在な上に、成果を出せないまま2年もそんなことを続けさせてもらいました。しかし、そのおかげでOpenStack Neutronのコミッタになることが出来ました。ベンダやディストリビュータではない会社でOSSフルコミットさせて貰える会社はそれほど多くないと思っていますが、私の希望を叶えてくれた会社には感謝しかありません。気づけば、私のチームは、OpenStack公式プロジェクトのプロジェクトリーダーが2人、コミッタが2人いるとても強いチームになっていました。これはOSS活動を例に出しましたが、研究や標準化などといった分野でも同様に研究所は研究者を信じて時間とお金を惜しげもなく与えて成長を促してもらえる場所です。kumagiの例の記事では負の面ばかりがクローズアップされていますが、前半に書かれている良い面も事実として注目をして欲しいです。

 

さて、じゃあなんでお前は転職するの?という疑問の回答としては、研究所はどうしても事業会社との距離が遠い、つまり実サービスから遠いところで研究開発をすることが多くなってしまうという点で、もっとサービスに近い場所で開発をしたいという点が大きな理由としてあります。 研究所にここまで育ててもらった恩返しがしたいという気持ちや新しい技術を身につけるなら研究所のほうが良いんじゃないかという気持ちなどが渦巻く中、私の決断としては外に出てみたいという気持ちが強くなりました。

 

蛇足的な話

こんな言及はしたくないのですが、kumagiの記事がバズりすぎていて、さすがに困った感じになっているので、少しだけ余計なことを書くと、NTT研究所は悪い場所ではないです。上に書いた通り、社員を信じ、圧倒的に成長できる機会をくれます。私は学生時代に書いたコードで一番行数が多かったのが大学の課題で書いたコンパイラC言語で3千行くらい)でしたし、某インターン面接で「好きなソートアルゴリズムとその実装方法を教えて?」という質問にバブルソートしか回答できず即落ちしたくらいのレベルでした。そんな私でも気づいたら大きなOSSのコミッタになれるまでに成長できる機会を与えてくれるような会社は人生何回やり直してもNTT研究所しかなかったと思います。

 

追記

あっ、GAFAではないです。